以前うちの院で働いてくれていた女性鍼灸師の児島先生が
「世界をまたにかけて鍼灸やりたい!」と言って本当に行ってしまった。
海外セレブが乗船する豪華客船に入っているスパでの仕事だ。
今回2度目の航海を終えてこちらに帰ってきたということで、たくさん土産話を聞いてきたので記事にする。
海外の豪華客船で鍼灸をするという道
そもそもだ。そんな仕事があるのか!というのが最初の驚き。
イギリスとアメリカに拠点を置く客船でのスパ事業を手掛ける「スタイナー」という会社があり、ネットなどで求人を盛んに行っているんだとか。このスタイナー社、もともとイギリス王室御用達の美容室らしい。
どういうシステムなの?
まず年に数回東京で行われている面接(英語)を受け、それをパスしたら次はアメリカ・ロサンゼルスでの3日間の研修に行く。行きは自腹で。
また、この時には中級程度の英語力が必要なので、研修を受ける為や面接をパスする為のスクールなんかもあるそう。
会話できても医学用語の英語なんてわからないもんね。
関係ないけど今はこんな本もある。結構外国の方くるし。
だれでもなれるの?
募集は鍼灸師、セラピスト(なんか特定のエステ資格が必要だそう)、美容師、ネイリスト、ジムトレーナーなどで行っており、日本からは鍼灸師が一番多いんだとか。
それでも足りないようで、日本人鍼灸師は特に重宝されるそう。
英語ができれば大丈夫、できなくても専門のスクールに通えばだいたいいけると。
メディカルチェックはパスしなきゃいけないので、健康は必須条件!
で、研修を終えたら、その後タイミングの合う船に乗船!(初回は船を選べないそう)
その時も片道は自腹!!
契約は乗船する日から、だそうなのでまあわからなくもないけど。笑
いざ乗船
だいたい7ヶ月の船旅になるそう。
お客はだいたい2週間くらいで入れ替わり、同じ航路をぐるぐるする。
乗ってすぐ仕事!とはいかず、だいたい最初の1週間は各種設備の使用方法や避難のトレーニング、会計レジや受付機械の操作などを教わるそう。
どんなとこで働くの?
船内には宿泊者用に綺麗なスパがあり、様々なサービスが提供されている。
なので当然たくさんスパスタッフがいて、それぞれ専用のブースがある。
エステやマッサージセラピストは並んだベッドが、鍼灸は個室が与えられる。
日本の鍼灸師は意外に思うだろうが、船内での鍼灸師の地位は高い。
船で働くので船員の扱いになる訳なので、階級分けがある。
船長(キャプテン)が最高位で、その下に1~3等航海士(オフィサー)、以下多数となるんだけど、鍼灸師はなんとこのオフィサークラスの扱いなんだそう。ドクターとも並列。
だから、他のスタッフには「Dr.〇〇」と呼ばれるので「いや私はDr.じゃない、セラピストだ」と言っても「いやいやあなたはDr.です」と言われるんだとか。
欧米では当然のことらしい。扱いが低いのは日本だけなんだと。
だから他のスタッフは居室も大体数人で1部屋のところ、鍼灸師には1部屋もらえるので、家族なんかも招くことができるんだとか。もちろんタダ。
乗船間もない頃の児島先生。いっぱいいっぱいだったそう。
船での生活は?
衣食住はタダ。コーヒーやジュースなどの嗜好品は有料。
船員エリアではなく乗客エリアの施設も一応立ち入って良いので、レストランやショッピングをする時なんかは実費。
乗船時にクレジット機能やパスポートIDの機能付きのカードが支給され、基本的にはそのカードで全て間に合う仕組み。
寄港した時は乗客も降りてしまうので暇になる。ので自分たちも降りて観光できる。
鍼灸師はだいたい週52時間の労働が義務で、それ以上は原則自由。だから寄港日に合わせてシフトを組んでガッツリ観光もできるとのこと。
船でのインターネットは一応あるにはあるが激遅&激高らしいので、寄港した時のフリーWi-Fiスポットが生命線になるんだとか。
給与体系はどんな感じ?
ほぼ完全歩合制。だいたい1時間2万くらいの施術料金のうちの8%くらいが取り分で、規定料金に組み込まれているチップ(15%くらい)の全てと、さらにサービスに応じてチップをもらえることもあるんだとか。
チップ文化のあるアメリカは特に凄いんだと。逆にイギリスは組み込まれているチップすら渋ることもしばしばと。笑
国民性ですな。
要はだいたい時給4,000~くらいの感じ。かなり能力や船の種類で上下するけど
月収30~60万で、やり方次第では100万超えも全然あると。
で、生活にはほぼお金を使わないので貯金にはちょうどいいそう。
忙しい時期は12時間以上働き続けることもザラなので、タフな仕事ではあるそうだけど。
他のスタッフは?
スパにはたくさんスタッフがいて、ドクターなんかもいるそう。
ほぼ女性で、いろんな国の若い女性が出稼ぎにきているという感じ。
給与は欧米基準なので、祖国よりずっと高給なのだそう。
普段会わない他の部門のスタッフも、夜ラウンジに繰り出すとたくさん交流を持てるんだとか。
日本人はたいそうモテるらしい。
婚活や恋人探しにも是非。
寄港した時も仲良くなったスタッフと一緒にツアーを回ったりするそう。
アジア人は基本線が細いので、ちゃんと食べてるか心配されるんだって。笑
船の種類は?
最大の客船「ハーモニー・オブ・ザ・シーズ」
引用元:Harmony of the Seas | Royal Caribbean International
こちらなんと6000人近くの乗客が乗れるそう。もはや国。設備も鬼。日本のツアー会社のサイトによると、こちらの船で10日間の地中海クルーズでだいたい50万。
そんな船にタダで7ヶ月乗れたらそれだけでなんかお得な気もする。
ただ仕事量も鬼。儲かりはするだろうけど。
今回話を聞いた児島先生はディズニーの客船だったそうで、とても人気な船なんだそう。規模や人気によっても全然違うし、あと航路によっては乗ってて景色に飽きるんだそう。外ずっと氷河とか。笑
仕事内容は?
気になる仕事はというと、もう超ビジネスライクの結果至上主義。
管理するマネージャーによっても様々だそうだが、基本はいかに数字をつくれるか。
患者をじっくり診て結果を出すことは評価の対象にならず、同時に最大人数を回し、いかに漢方サプリの物販を取るかという部分で評価される。
基本的に1、2度受けたら船を降りていく人たち。会社からしたら満足度や治効ではなく数字が重要。
鍼灸治療の性質とは相容れない部分があるが、そこは到底理解してもらえないので割り切ることができるかどうかがこの仕事の適性を決めるのだという。
顧客はどんな人たち?
基本的には欧米の富裕層がメインの顧客層だそう。
最も多かった主訴は腰痛。次いで片頭痛。顔の美容鍼を希望する人はほとんどいなかったそう。
足底筋膜炎も結構多かったと。欧米人って体型の割に下半身細いからかなあ。
あと「肩こり」という概念は実は日本にしかなく、「肩が痛い」「首がひきつる」という訴えなんだそう。
アジア人、特に日本人の鍼灸師は顧客的にも非常にウケがいいそうで、乗客だった鍼灸師が施術を受けに来たこともあったとか。
ちなみに、アメリカでの鍼灸師の平均年収はだいたい700万くらい。日本の平均の倍以上。
しかし、初めて受ける人の多くは鍼灸のことを「魔法」だと思っているようでそのギャップを埋めるのに骨が折れるとのこと。
鍼灸は有効だが、一撃で痛みや不快が取り除けるケースは少ない。トレーニングなどと一緒で、繰り返すことでだんだん良くなっていくのが基本。
だから実際問題としてそもそも短期航海には向いてないんだけどね。笑
どんなことが楽しかった?
いろんな国を巡れて遊びにいけることやいろんな国の人を診れること。
どんなことが辛かった?
結果至上のマネージャーに当たった時のストレスとそこに折り合いをつけて治療をしなければいけなかったこと。
どんな人に向いてる?
治療を仕事と割り切れる人、スタッフやクライアントとしっかりコミュニケーションが取れる人。
いかがでしたか?
鍼灸師として生きることの新たな選択肢がそこにはあるような気がしました。
「世界をまたにかける鍼灸師」カッコいいなあ。モテるらしいのでいつか新屋も行ってみよう。
世界で評価されている東洋医学や日本の鍼灸師。日本でもしっかり認められるには、鍼灸師ひとりひとりの振る舞いや行動が重要だと思う。
最後にひとつ児島先生に質問してみました。
━━━「豪華客船で働く」って、どういうことですか?
ある意味、現実逃避
ある意味、自分試し
児島先生ありがとうございました!!