以前にも書いたように、僕は会社の運営する鍼灸院部門の責任者という立ち位置でありオーナーではない。
鍼灸師といえば資格取得と同時に独立開業権の認められる数少ない医療資格だ。
労働環境も基本的に丁稚奉公が当然で「独立してからが本番」のような業界なので、能力ある人はみな独立を目指す。
新屋にも丁稚奉公時代がちょびーとだけありました。
まがりなりにも2院を運営し、業界的に見たらまあそれなりにうまくいってる方の院のこもの鍼灸院。
だから会う人会う人に「いつ独立するの?」「なんで独立しないの?」「え、経営者じゃないの!?」と聞かれる。
なんでみんな独立したいのか
他の業界でのサラリーマン経験があったので、逆にみんなの独立に対する考えのハードルの低さがなかなか理解できず、なぜみんなそんなに独立したいのかがよくわからなかった。
逆に「なんで独立したいんですか?」というこちらからの問いに対し、お金や自由以外のことで納得いくような理屈を聞けたことがなかったので余計に。
ある時まではそうした質問の意図が腑に落ちず、ずっとモヤモヤしながらうまく言語化できずにその疑問に答えていたのだけど、ある人のある記事を見た時に「そうそうこういう感じ!!」となり、頭の中の考えが整理された。
木村直人さん、なんで独立しないの? | リクエストQJナビ【特集・キャリアアップ】
全てこの通り!という訳ではないんだけど、この木村さんの考えはかなりストンと落ちた。
衝撃を受けた。
僕が組織にいる理由
いろいろあるけど、ざっくり言うと
①自信がない
②不満がない
③ストレスがない
といったところでしょうか。ないないづくし。
あとは
④人と働きたい
⑤客観的に見ていてもらいたい
という感じ。
自信がない
これはまあ誤解を招きそうだけど。
ぶっちゃけ「一人治療院」をやるとかなら自信はある。技術も経営も別に不安はない。
ただ「それをこの先一生安定して続けていく」ということに対しては自信がない。
というかあると言える人いるのかな。
どれだけ腕があっても、自分が倒れたら終わりの商売は不安定と言わざるを得ない。
よって社会的信用もない。そんなリスキーなことで家族を守るとか言えない。
もし一人治療院をやるなら、他で生活できるくらいの収入源がないとつらい。
じゃあ今みたいに「人を雇用していく」という選択肢は?となるが、それこそ軌道に乗せるまでのスタッフへの安定まではとても保証できない。その家族や人生まで背負うとなればより軽々しく言えない。
それを身をもって感じているので、福利厚生を揃える事、給与を払うこと、雇用することに対するオーナーへの敬意は非常に強く持っている。
もちろんそうした不安を乗り越えて独立して新たな組織を作っていくというのは素晴らしいことだし尊いことだけど、この組織を自分の力でより良いものにしていくという選択肢もあっていいんじゃないのかなと。
ありがたいことに、それができる環境でもあるので。
不満がない
うちのオーナーは変わっている。
もちろんいろんな判断基準があってのことだとは思うけど、実績もなにもない僕に組織を預けてくれてあれこれ言わずほぼノータッチでいてくれるのだ。
大手SC内の大型店舗と都会の一等地の綺麗な店舗をよくわかんない若造に任せて「やってみろ」とはなかなか言えない。
いわば独立するより遥かに早く大きなフィールドで自分の運営ができるわけで。
それもノーリスクで。こんな話はない。誰だってやれるもんならやりたいはず。好き好んでリスクに飛び込むのはただの無謀だ。
経済的にも安定していて、仕事もある程度自由がある。休みもちゃんと取れるし公私ともにとても充実しているという実感がある。
恵まれた環境だなあとあらためて。
ストレスがない
もちろんゼロと言うとさすがに嘘だけど、大きなストレスはいまはない。
これが経営から施術から管理から全て自分でやっていたらと思うと、何をしていても孤独でストレスを感じるんだろうなと。
好きなようにやらせてもらってて、スタッフは頑張ってくれていて、患者さんにもたくさん喜んでもらえて。
なおかつ、うちの会社は鍼灸事業より利益を上げている事業があるので展開的にもやりやすい。
視野を常に広く持てるのはとてもありがたい。
人と働きたい
これは、こもの鍼灸院で知ったことだ。
基本的に僕はある程度のことは自分でなんでもできるので一人でも困らない。
と、思っていた。
自分の思い通りにならない人間や、他人に抱く「なんで自分と同じじゃないの?」という感情は邪魔でストレスだ。
と、思っていた。
信頼できる人と一緒に働く。
信頼に応えてくれる。
それがどれだけの喜びであることかというのは僕がスタッフに教えられたことだ。
うまくいくこともいかないことも分け合えるということが今の僕にとっては代えの利かない組織に属する理由なのかもしれない。
できればこの組織がずっと続いていき、大きくなっていけばと思っている。
要はそういう人とずっと一緒に働いていきたいわけだ。
それをだ。一応管轄する部門の長である僕が「独立してえ~」「独立最高~!」などと言っていてスタッフに対しなんの説得力があるのだろうか。
安定して働けて、やりがいとメリットに溢れる組織がもしあれば、そこでずっと働きたいと思うのは自然なことじゃないかなあ。
今業界にはない、でもきっとあったらいい、組織に属するというメリット。
いまはそういう組織を作っていきたいというのが長期目標だ。
ひいてはそういう組織が同時多発的に各地でぽこぽこと出来てくることがより鍼灸業界の成熟をすすめるんじゃないかなあと。
客観的に見ていてもらいたい
基本的に僕は怠惰だ。そして傲慢だ。
オーナーは基本的に僕に対して批判的だ。だがそれが非常にありがたい。
常に立ち返って自分を客観視できて、綻びがないように引き締まった運営ができる。
自分の能力は全然足りないし甘い。だからこそケツを叩いてくれる存在がいてくれるのは、組織に属する大きなメリットだと感じている。
もちろんいつかは認めてもらいたいけど。ま、それがひとつの目標でもあるわけで。
そして何を隠そう妻も基本僕に対して批判的で否定的だ。笑
それもまた成長要因である。
こんな感じです
ざっくり言うと独立しない理由はこんな感じ。
細かく言えばもっといろいろあるけど。
別に金欲しさで仕事してる訳じゃないので(そりゃもちろん欲しいけど)、多少の金と自由を手にするために払うリスクと今の環境を天秤にかけたら別に独立することにそこまでの魅力を感じないなあと。
より幸せに生きられる道があれば、そうするかもだけど。
理想は社内起業とかできたらいいなあなんて。
手前味噌だけど、仮に今のウチのような環境でずっと働けますよ!と将来の不安な新卒の学生なら「ずっと働きたいな」と思う人も少なからずいるんじゃないかなあ。
必ずしもみんながチャレンジを望んでないし、チャレンジしないことが悪だとも思わない。
それよりも、せっかく資格とったのに「施術に向いてないから・・・」と全く別の道に進むのはもったいない。
コンサルにしろSEにしろ営業にしろ総務にしろデザイナーにしろ、鍼灸業界に関わるそうした仕事なら鍼灸師の資格がある方がいいに決まってる。
カリスタさんなんかを見てると強くそう思う。
「鍼を刺さない鍼灸師」の生きる道はもっとたくさんあっていいんじゃないかなあ。
その為にはやはり組織が必要だと思うけど。
もちろん、自らリスクを取って道を切り開いている人には最大級の尊敬の念と憧れはある。
ま、自分の身を削っていない人間の戯言のひとつということで。
雇用されるのもなかなか悪くないっすよ。